林檎酒のミルクティー割りの話

生まれて初めてホストクラブに行ったお話。


遡る事○年、あの日は雨が降る初夏の頃。
20歳を迎えて大人の仲間入りだと喜び勇んでいた純粋だった私。
18で結婚して、成人式には子どもを連れていきたいなぁでもそしたら振袖着れないね…なんて考えていた16歳からあっと言う間に20歳になり「あれ?私18で結婚するとか言ってなかったっけ?」なんて考える暇もなくあれよあれよと成人してしまった私。

当時バイトしていた定食屋の同僚ハナヨちゃんに、「かなえちゃん今夜暇?ちょっと付き合ってほしいんだけど〜」と言われ誘われた事が嬉くていいよ!!!!!!!と即返事をしてしまいました、その間0.02秒。
「OK♫かなえちゃん今日24時まででしょ?私22時上がりだから待ってるね!上がる頃店に戻ってくる〜♫」
と、どこに行くかも聞かないまましてしまった約束。

24時になりハナヨちゃんが迎えに来ました。


……あれ?!ハナヨちゃん結婚式にでも行くの?!とばかりにヘアセットしてドレスアップした姿。





「かなえちゃん20歳になったでしょ?今日はね、私がいつも行くホストクラブに連れてくから!」

ほ、ほすとくらぶってドレスアップして行くところなんですかー?!
私その辺にあったカットソーに小学校から履き続けてるジーンズ、毛玉だらけのカーディガンなんですが…。
ていうかホスト?!なにそれ?!どこにあんの?!聞いてないよ?!
と言いたい事は山程あるなか、一言も発せられないまま連れて行かれた路地にあるビル、恐れおののいてこ、このフロアにあるんですか…と思わず敬語になる私。


慣れた足取りで店に向かうハナヨちゃん。についていくまるで子鹿のように震えるブス。私。子鹿っていうよりホームレスのような風貌でしたが。



ドアを開けて中に入ると、薄暗く怪しい店内。もうおしっこチビりそう、チビりそうっていうかチビってたかもしれない。

「20歳以上の方のみ入店を許可しております、証明できるものはお持ちですか?」と聞かれ、受付で身分証を提示させられるもFランもろバレの学生証しか持っておらず、これで大丈夫ですか、と蚊の鳴くような声で見せると、大丈夫ですよ。と優しい声が。



ホームレスの様な妖怪女にもこんなに優しいなんてここは天国か?


ハナヨちゃんは常連らしく、「今日は指名は?」「ん〜今日は新規の子連れてきてるからフリーで入るよ♫」と仲良さげに話していました。


ちなみにその間私は入り口のドアの前から一歩も動けていません。




席に案内され、最初の飲み物を聞かれます。
ハナヨちゃんは「私鏡月のソーダ割り!」といつもの!みたいな顔して頼んでますが、
え?!鏡月?!なにそれオシャレ!飲んだことない!私普段二階堂しか飲まないんですが?!
と注文に手こずっていると、目の前に若いお兄さんが。

「お姉さんは?決まった?」






さっ………







さわやかーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!












なにそのニコッ♡とした顔!!!!!!!!!!!!!
さわやか!!!!!!!!!!!!!!!!!








多分この辺でおしっこ全部出た。

「あ、あのあのあの、あの、」
「うん?(ニコッ♡)」
「普段こういうの飲まないから全然わからないんですけど……」
「そっか〜。あんまり強くない?じゃあベースは俺に任せてくれない?」
「あああああああああもうお願いしますお願いしますお願いします」






なにこの素敵なリード?!天使?!いや大天使?!
大天使ミカエルが目の前にいました。
やはりここは天国でした。







「じゃあ、割りものはどうする?」
「わりもの」
「何で割るかって事だよっ!」
「えええ〜〜〜もうわかんないわかんない!お兄さんのオススメでお願いします!!!」
「じゃあミルクティーで割ろうか!」
「は?ミルクティー?美味しいのそれ」






聞きなれない「ミルクティー割り」に思わずミカエル様に舐めた口をきいてしまいました。主よ、お許しください。






「大丈夫、ちゃんと美味しいよ!飲みやすくてオススメ♡」
「じゃあそれで……」


隣でハナヨちゃんはお酒一杯もまともに頼めない妖怪ホームレス女にゲラゲラ笑っていました。
人の注文を笑うな。





そんなこんなで、さっきのミカエル様が私達のテーブルに着いてくれました。


緊張のあまり挨拶もそこそこに震えながら煙草を取り出すと、どこに仕込んでた?と聞きたくなるくらいスムーズにジッポを取り出し火をつけてくれるミカエル様。
ミルクティー割りめっちゃ美味しいです信じてよかったミカエル様。


「お姉さん、名前はなんていうの?」
「かなえです……」
「へー!じゃあ、かなちゃんって呼ぶね♡」
「おおおおお好きに呼んでください…」
「俺はリュウ(仮)ていいます!よろしく!これ名刺、番号書いてるからよかったら連絡ちょうだい♫」
「はい………」


と、まったく弾まない会話、ニコリともしない無愛想なホームレス女にもめげずに笑顔で接してくれるリュウくん…あんたスゲーよ……。
ふと隣を見るとハナヨちゃんは知らない男の子と盛り上がっていて、

「えー?ハナヨの友達?初めまして〜Aでぇーす⤴︎⤴︎」
と声をかけられました。
大天使リュウ様が完璧すぎてあまり興味を持てず名前は忘れました。ごめんなさいAくん。






ってうわぁーー!!!!ホストだ!!!
なんかテレビとかで見た事ある感じの人だ!!!!!!!







いたんだよ!!!本当にいたんだよ噴水みたいな髪型のホストは!!!!!!





と心の中で絶叫していたらリュウくんが

「もぉ〜かなちゃんはこっち!俺と話してんだからよそ見はダメ!Aはハナヨちゃんに任せよ!」
と割り込んできたんですよ。









もう、ね。
なるほど〜ってかんじでね。
あれだね。










リュウくん…♡」

ってメスみたいな声が口をついて出たよね。
多分私の中の枯れかけてたメスの意識がビックリしてなんかの誤作動が起きたに違いないってくらい自然にメス声が出ちゃったもんだからさ、






リュウくん…♡
………ゲッホ!!!ゲッホゲッホオエッ!!!」










噎せました。
多分この辺で私は完全に「落ちた」と思われていたと思います。チョロい妖怪です。妖怪チョロ女です。


リュウくん、今で言う塩顔男子で…そうですね、ちょっと田中圭に似てるかな。
田中リュウくんですよ。そんな爽やかなイケメンにこんな事言われたら誰だって落ちるでしょうよ。妖怪だって落ちるでしょうよ。

気を取り直して色々お話しました。

リュウくんは何歳?」
「ん〜……答えなきゃダメ?(笑)」
「嫌なの?なんで?答えて!!」
完全に面倒くさい客になってますね。

「かなちゃん引かないでくれる…?」
「え?!年齢で引くってなに?!」
「俺18歳なんだよね〜」












年下ああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー










年下…年下……?!
正直女慣れした年上のお兄さんにあれこれ甘い言葉を囁かれてゲヘヘゲヘヘって出来る所だと思い込んでいたから少しショックでした。
でもよく考えろ、目の前におられるは大天使様であらせられるぞ。









「んも〜♡そんなの関係ないよぉ〜〜♡」









メスの意識が勝った瞬間でした。
そのあと色々お話した気がするんですが浮かれすぎててよく覚えていません。
途中ハナヨちゃんが
「え〜かなえちゃんリュウ気に入ったかんじ〜??確かにいい奴だもんね〜♫」
と話しかけてきましたが、さながら小学生男子のごとく
「は?!いやいやぜーんぜん?!確かにいい子だけど〜?!」
と答えてしまったことは覚えています。



なんやかんやと話していると、
「ごめんかなちゃん、ちょっと行ってくるね!」
リュウくんが席を抜けました。
なんとこの日はこの店のNO.1のバースデーイベントだったらしく、店中の男の子がNO.1くんがいるテーブルに呼ばれシャンパンコールが始まりました。



わぁ〜!!これもテレビで見た事あるやつ〜!!!!と感動していましたがハナヨちゃんはイライラしているご様子。
「今日はフリーだしバースデーだし仕方ないけど、放置はありえなくね?」
と裏方の内勤くんにクレームをつけていました。
ええ〜私はこの状況面白いけどなぁ〜と思っていると、別の男の子が。

「初めまして!ハナヨの友達?俺ハルキっていいます!」




うわぁ〜〜〜これもまたイケメン〜〜〜!!!!!!!
と見惚れていると、ハナヨちゃんが
「はあ?ハルキ呼んでねーし。あっちいけよ。」
と冷たくあしらっている!!!
「ええ〜ハルキくんに失礼だよ!」
と言うと、
「かなえちゃん知らないもんね、こいつヤリチンだから気をつけたほうがいいよ。潰されてすぐ食われるよ」




ひええええ〜〜〜??!?!??!食われてしまう〜〜〜〜〜〜新たな文明でも生まれていそうな前人未踏の私の下半身についに新人類が入ってしまう〜〜?!と身構えていましたが全然そんな事はありませんでした。
文明は発見してもらえませんでした。


ハルキくんは20歳で、あ!私とタメだ〜♡と言うと「えーまじ?かなえちゃんもっと若く見えるよねっ♡」と営業トークバリバリで喜ばせてくれました。単純なのですぐ喜びます。メスのスイッチが入ってるので誰にでもメス声が出ています。

「私ホストクラブって初めてで〜…」
「いや、うちメンキャバね。」
「はい?」
「メンキャバ。間違えないでね」
「めんきゃば」


マジな顔してマジなトーンで説教された。
なんすかメンキャバって。



と、多分5分くらいしかお話していないところで、ハルキくんに指名が入り抜けてしまいました。
説教で終わった。
また取り残されたホームレス女とそれに不釣り合いなドレスアップ女。


リュウくんが慌てて戻ってきて、「ごめんね、下っ端はボトルを飲み干すのが仕事で……」と言っていましたがハナヨちゃんは変わらずふーーーーんと振り向きもせず。
ハナヨちゃん…意外過ぎる一面だよ…。




なんとか重い空気を和まそうと頑張るリュウくん。


「見てて!ここ!手のひら!」
とボールペンで手のひらをポンポン。
「いくよ〜〜………


1




2







3!」


あれーーー?!いま手に持ってたボールペンが消えた〜〜〜?!?!?!
完全にこの空気を楽しんでいた私、本当は「3!」の瞬間ボールペンを耳にかけていた事は気づいていたんですが必死にすごーい!すごいよ!!ハナヨちゃん見た?!?!と言
うと、





「かなえちゃんって単純すぎない?耳にかけただけじゃん」








おい!!!!大天使田中リュウ様が和まそうとした努力を無駄にすんな!!!!!!!!








でもやっぱり大天使様、怒るでも落ち込むでもなく、「やっぱりハナヨちゃんはすぐ分かっちゃうね。敵わないな〜」と困った笑顔で、それでいてハナヨちゃんアゲを忘れずに切り返してくる。
プロや………。あんたプロやで………。




完全にリュウくんに落ち、しかもさっきヤリチンだの何だのと聞いてしまった私は、正直リュウくんの股間ばかり見ていました。


だって、だってだよ。



目の前に大天使様が鎮座しておられるのだよ、正にチンが鎮座しておられるのだよ?
朕の珍も発見してもらいたいじゃないですか?




だいぶお酒も回っていつもより更に頭がおかしくなっていた私、






リュウくんってちんちん大きいの?」















無意識に出てました。



何言ってんだ私は?!覆水盆に返らず?!あああ〜ほらめっちゃ引いてる!!引いてる!!!!
ハナヨちゃん笑いすぎ!!!!!!!



「あっいや!何でもない質問変える!!!
リュウくんって毎日抜くの??!?!」


















チーーーーーーーーーーーン(チンだけに)(0点)

















自分で追い討ちかけてどうするんだ。
ハナヨちゃんお腹かかえてる。
リュウくん顔赤くなってる(可愛い)。
私顔あげられない(地獄)。


「めーーーーっちゃウケる!!!!リュウはやく答えなよ〜〜〜!!!!!」

ハナヨちゃん……もうやめて…







「えーーーっと………







毎日抜いてるよ」




















ジーーーーーーーザス!!!!!!!!!!!!!神よ!!!!!!!!!
この汚い雌豚めをお許しくださいませーーー!!!!!!!!



毎日と答える事を望んでいると気づいたであろう大天使様はハニカミながら(ポイントアップ)客の期待に応える、最高です。参りました。
ハナヨちゃん笑うな。人のオナニーを笑うな。

まずいと思い、話題を変えようとした途端
ハナヨちゃん「あっもう時間?帰る帰る〜新規の子がいるのに延長できないよ〜」と。




おいオナニーの頻度の話で終わったぞ。







会計の時にハナヨちゃんが、「無理やり連れてきたようなもんだし今日はあたしが持つよ♫」と私の分まで出してくれました。





「ハナヨちゃん……♡」
「キモい」




もはや誰でも良くなってる。


ハナヨちゃんにクレームつけられてた内勤の男の子が来て、送り指名は誰にしますか?と聞きにきました。



送り指名ってなんぞや。





「あのね、フリーの客はお店の外まで見送りに誰にエスコートしてもらうか指名できるの。かなえちゃんはリュウでしょ?」



さすが大先輩、私が口に出さずとも考えていることを当てて教えてくれました。
もちろんリュウくんです。


すぐにリュウくんが来てくれて、
「送り指名ありがと♡荷物は持つから、ちょうだい。それから、はいっ♫」
と腕を差し出します。何?!何?!食われる?!と身構えると
「腕、組んでいかない?」








ああああああ〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!
床で転げ回るかと思った。
完全に年下の男の子って事を忘れて浮かれながら18歳に腕を組む20歳の妖怪。

エレベーターまでの道で、




「ホストクラブって初めてだったけど楽しかった♡」
「いや、うちメンキャバだから」
「あ…」









最後にまた説教されました。
違いも分からないので私はしつこくホストクラブと言い続けます。

最後エレベーターが閉じるまでニコニコ手を振ってくれた大天使様。
ハナヨちゃんはAくんを送り指名していました。
とにかくハナヨちゃんありがとうという気持ちでいっぱいでした。


外は雨が強くなっていました。
現実に戻ってきちゃったなぁって思いました。



お礼のメールをしたかったのですが、勇気が出せずに連絡できないまま、気がついたらリュウくんはお店を辞めていました。
もともと専門学生で就職が決まったら辞めると言っていたのですが(まあ嘘かもしれないけど)いざ辞めちゃうとなんだか少し寂しいですね。

まあこの一回以来お店には行ってないんで辞めたっていうのもハナヨちゃんから聞いたんですが。




いまもどこかで元気に誰かにさわやかな笑顔を振りまいて幸せになってくれている事を願うばかりです。
楽しい時間をありがとう。下品で不躾な質問してしまってごめんね。


そうして私のホストクラブ処女は華麗?に散り、今も下半身の文明は進化を続けています。おわり。